名古屋大学大学院国際開発研究科 特任助教
オリフィレンコ アラ
2025年3月15日、「カーボンニュートラルをめぐる地域の可能性と挑戦」と題したセミナーを野村コンファレンスプラザ日本橋、東京で開催しました。
持続可能な地域開発とエネルギー転換への関心の高まりを反映し、学術界、産業界、地方自治体等から、90人を超える参加を得ました。
シンポジウムの全プログラムはこちらのリンクからご覧いただけます。

セミナーは本プロジェクトリーダーの石川知子教授(名古屋大学大学院国際開発・教授)の挨拶で幕を開けました。
セミナーの基調講演は、東京海上日動火災保険株式会社・相談役、経済産業省総合資源エネルギー調査会・会長、農水省ウッドチェンジ協議会・会長の隅 修三氏に頂きました。「日本の林業再生と地域循環経済創出」と題した講演で、隅氏は、気候変動と人類の健康のための持続可能な林業の重要性を強調されました。木材を原材料として積極的に利用することは、森林を若々しく健全に保つと共に、気候変動や人間の健康に多くの恩恵をもたらし、森林再生のサイクルの重要な一部です。また、木材は一般に信じられているのとは異なり、現代の大規模建築においても有効利用が可能であり、そのため、木材は建設業界のサプライチェーンにおける主な材料として復活すべきであると説得的にご講演いただきました。

基調講演に続き、2つのパネルディスカッションが行われました。
パネル1:「地方創生に関連する最近の法・実務とエネルギー転換への示唆」(モデレータ:前田 博氏、森濱田松本法律事務所外国法共同事業・客員弁護士)
- 新井 剛教授(早稲田大学商学学術院・教授)はキャッシュフロー型融資の推進に関する法律が地域活性化やエネルギー転換関連プロジェクトに与える影響について議論しました。
- 原田 文代氏(日本政策投資銀行・常務取締役)は地域活性化とエネルギー転換の同時進行を成功するための前提条件として、地域のステークホルダーの強いコミットメントの確保、経済力と資産の適切な消化、世界的なエネルギー転換の進展における不確実性を考慮した複数のシナリオの開発などを強調しました。

パネル2「カーボンニュートラルに向けた地域の取り組み」(モデレータ:堀口 崇尚氏、三井物産電力事業株式会社・社長補佐、京都大学・特命教授)
- 在間 敬子教授(京都産業大学・学長)は企業と地域のカーボンニュートラルの取り組みー川崎市臨海部の水素戦略の研究を共有されました。
- 島 美穂子氏(森・濱田松本法律事務所外国法共同事業・パートナー弁護士、経済産業省総合資源エネルギー調査会 委員)は水素社会推進法に基づく拠点整備支援が地域にもたらす可能性について話されました。

最後に藤原 帰一教授(東京大学・名誉教授)による閉会の辞で、セミナーは幕を閉じました。

国および地方自治体の関係者、中小企業から大企業までの企業関係者、研究機関やシンクタンク、そして一般市民の方々まで、多様な背景を持つ方々のご参加を得られたことは、大変嬉しいことでした。以前のコラムでもご紹介した川崎市役所や福井製作所の方々に、再びお会いできたのも嬉しい驚きでした。
このような多様性は非常に重要です。というのも、エネルギー転換は社会全体の取り組みであり、単に異なる種類の燃料をパイプラインに通すだけで実現できるものではありませんし、産業施設の中だけで完結するものでもありません。社会全体に影響を及ぼすプロセスであるからこそ、あらゆる立場の人々の協力が不可欠なのです。
過去を振り返ってみましょう。電化が始まった時代、電気が導入された地域は、まだロウソクやガス灯を使っていた地域に対して大きな優位性を獲得しました。しかし、科学者、発明家、政府、製造業者、労働者、消費者の間で十分な意思疎通や連携がなされなかったことから、思いがけない問題が発生しました。今日では考えられないような安全性の見落としによる火災や、労働争議の増加などがその例です。しかし、それによって変化の流れが止まることはなく、適応が遅れた者たちは取り残されていきました。
現代のエネルギー転換が、電気の導入ほどの革命的なインパクトをもたらすかは定かではありませんが、それでも産業構造に大きな変化をもたらし、その結果として地域社会、とりわけエネルギー集約型産業に依存する地域に深い影響を及ぼすことは間違いありません。したがって、地域の行政や住民が、エネルギー転換を「起こるべくして起こるもの」として受け入れ、それに主体的に取り組む姿勢を持つことが重要です。
本セミナーの発表でも示されたように、こうした地域の取り組みはすでに始まっており、それを支援するための法的枠組みも整備されつつあります。こうした動向に関心を持ち、持続可能な取り組みに熱心な方々が集まってくださったことに、私は大きな希望を感じました。このセミナーが、こうした複雑に絡み合う課題への理解を深め、地域を超えた関係者同士のつながりを促す場となったことを願っています。