名古屋大学大学院国際開発研究科 特任助教
オリフィレンコ アラ
先週、H2Governanceプロジェクトの石川知子教授、鄭方婷博士、伊藤和歌子博士、そして私が台湾を訪問し、「Emerging Framework for Global Negotiation on Energy and the WTO」(「エネルギーとWTOに関する新たな国際交渉の枠組み」)という会議に参加しました。この会議は、台湾の 経済部能源署(エネルギー省)と台湾綜合研究院(TRI)が主催しました。TRIは環境、気候、エネルギー政策および開発に焦点を当てた専門シンクタンクです。 プロジェクトメンバーは、会議に加え、日本台湾交流協会や他の関係者にインタビューを行う貴重な機会を得ました。 この出張は、私にとって、仕事面でも文化面でも非常に豊かな経験となりました。プロジェクトの助手として、そこで行われた洞察に富んだ議論を目の当たりにし、台湾の活気に満ちた多様な文化を垣間見ることができたことを光栄に思います。主催者、TRIスタッフの温かいおもてなしに感謝の思いを新たにしています。
パネル1(司会:国立政治大学の許耀明教授)では、H2Governanceプロジェクトの研究代表者である石川知子教授が、国際経済法と現在のエネルギー転換に関する多国間枠組みとの間で生じるうる論争について基調講演を行い、気候変動に加担する行為に対する一方的な経済制裁の使用に関する様々な問題にも言及しました。講演の後、パネルディスカッションが行われました。パネルには、元WTO台湾常駐代表代理の魏可銘氏、国立陽明交通大学法学部の倪貴榮教授、東呉大学法学部の張凱致助教授が参加しました。
パネル2(司会:国立清華大学の范建得教授)では、ペネロペ・クロスリー教授(シドニー大学、オーストラリア)が、国際的な政治的緊張の高まり、気候変動、エネルギー安全保障の確保の必要性の中急速に変化する世界エネルギー市場を導くオーストラリアの経験について発表しました。イラリア・エスパ教授(スイスイタリア大学)は、エネルギー政策にアプローチする安全保障主導と持続可能性主導を比較しました。後者は環境に優しいエネルギー転換と実験的な協力メカニズムに焦点を当てており、徐々に主流に入りつつあるようです。二つの基調講演の後、パネルディスカッションが行われました。パネルには、国立中興大学国際政治研究所の楊三億教授、淡江大学外交国際関係学部の陳逸青助教授、そしてH2Governanceプロジェクトの鄭方婷博士が参加しました。
ご覧の通り、会議の三人の基調講演者は全て女性であり、これはこのような会議ではまだ珍しいことです。若い女性研究者として、講演者たちがその深い専門知識、そして研究に対する強い情熱で聴衆の注目を一身に集めている姿を見て、私はこれまでにないほどの感動を受けました。
基調講演とパネルディスカッション、およびその後の議論は、台湾とヨーロッパに対する広範な影響について考えるきっかけとなりました。ヨーロッパ大陸で戦争が続く中、エネルギーを確保しようとするヨーロッパの取り組みは、台湾にとって東シナ海でのあり得る混乱を乗り越えるための貴重な教訓を提供しています。ウクライナ人として、私はエネルギー安全保障が国家安全保障の重要な部分であることを実感しています。エネルギー安全保障は、IEAによって「必要不可欠なエネルギーサービスを許容できる頻度と中断のリスクで、そして許容できる経済コストで確保されること」と定義されています。クロスリー教授の講演から、エネルギー安全保障と国家安全保障との間の密接な繋がりを確認することができたのは非常に心強かったです。
台湾の独自の法的地位は、既存の解決策の採用を難しくしています。台湾は、国際フォーラムや公的な国際協定へのアクセスが非常に限られているため、ソフト・ローを頼り、事案に即した解決を必要しています。この点、エスパ教授が述べた「持続可能なエネルギー貿易の未来は柔軟な法と新しい実験的な国際協力の形にある」という見解は示唆に富むものと考えます。
台湾はその歴史を通じて柔軟な国際法や様々な非公式な手段に依存してきたため、その技術力とエネルギー安全保障を確保する切迫した必要性と相まって、革新的な国際協力の解決策を開発する上で独自の地位を占めているのではないかと考えます。
地域の政治、エネルギー転換の成功、実験的なエネルギー手段などの変数の未来を予測することは不可能です。しかし、台湾の役割は今後も注視していきたいと強く思います。
統一された世界のエネルギー貿易の枠組みへの道は困難ですが、前向きな変化の兆しも見えます。
台湾から帰国し、多くの知識とエネルギー安全保障に関する議論に貢献するための決意を新たにしています。最も複雑な問題を取り組む上で国際的な対話と協力の重要性を改めて強く認識する貴重な経験となりました。